「天下の秋」
出色の見出しだ。毎日新聞夕刊が今回の政権交代を報告するドキュメント記事につけた見出しである。麻生氏、鳩山氏攻守ところを変えた人々の姿が描かれていた。秋は哀愁を思い寂しく感ずる向きもあろう。また逆に収穫の秋を迎え喜ぶ向きもあろう。この季節特有の感慨がアンビバレントな世相を映していて巧みな記事になっている。
しかし私自身の根拠なき感想だが、小選挙区制の選挙からすると4年後には再び逆転するかもしれない、と思う。そうすると正反合となり8年先が正念場ということになる。しかし果たして歴史がそう簡単に人間の思う通りになるものか。先のことはわからない。過日も滋賀に帰省し尊敬する叔父や従兄と政治談議になった。私が「少なくとも今回の政権交代で政策決定のプロセスがわかるようになったのは良かった」と言ったら、従兄は「透明性ということか」と私の意見を言い当てた。
今から半世紀以上前の1955年私がまだ小学校6年の時に書いた日記は以前にも紹介したが、最近その時期、亡母も並行して日記を書いていたことに気づいた。(と言うより、恐らく母は私に日記を書かせるために、自分が率先して模範を示さねばと思って買い与えたのかもしれない。二つに日記は全く同タイプの自由日記であるからだ。)
1月23日の私の日記
・・・大相撲初場所は千代の山が優勝した。六時のNHK国会ろくおんをきいた。鳩山さんはのんびりと緒方さん鈴木さん河上さんの質問に答えていられた。ぼくのお母さんは「お方はあほだ。やっぱり社会党の人のたずねかたがよい。」とはりきっていられた。
同日の母の日記には前日義兄が突然来られて接待に疲れ果てたようでNHKのその話は書いていず次のように記されていた。「お天気は上々、雪どけの水がジョロジョロととゆを伝う。自動車の走る音が合間合間に聞こえる。警笛が遠くへ過ぎ去っては又来る、静かな昼前の一時、火鉢にあたりながら家計簿の整理をする。(中略)午後漬物(沢庵味噌漬)」ところが翌日翌々日には次のような記事があった。
1月24日
(略)衆議院解散。与野党万歳三唱の録音を聞く。何の為か拍手位でとどめて置けばよいのに・・・
1月25日
寒い寒いと云って火鉢に当たって居る中に一月も後僅かとなって了った。午後胴裏を少し縫った。いよいよ総選挙各党予想の顔ぶれ一覧表が出る。目だって新しい顔ぶれもなさそう。党か人か。再軍備反対、憲法改正反対。やはり人より党を選ばねばなるまい。同じ党の中で人格のある人、実行力のある人にと思う。
この年の秋、自民党は自由党と日本民主党が合同し誕生している。今回の政権交代はその55年体制が完全に崩壊した出来ごとである。半世紀前の天下の秋は自民党総裁代行委員であった鳩山一郎氏が総裁になろうとしていた時期であった。(総裁候補として有力であった緒方竹虎氏の急死によって、翌年春初代総裁として選出される)
そして2009年の秋、その孫である民主党代表の鳩山由紀夫氏が、その自民党を倒して民主党代表、首相として政権の座に着いた。小学校6年生の目に映じた鳩山さんは「のんびり」としておられる方と写っている。今の小学校6年生はどのような印象を由紀夫氏に持つのだろうか。鳩山一郎氏は日ソ国交回復を実現した人であるが、同時にそれまでタブー視されていた憲法改正を政治の軸とした人である。戦後の日本政治の民主化を求めて田舎の母子が中央政界の政治に注目していたにもかかわらず、様々な膿をかかえながら今日の政治は随所に様々な利権政治をもたらし、制度疲労をかかえている。
最近、ある人の著作集を手にした。その人は1958年1月に次のように言っていた。
「(略)しかし我等日本人の心は、敗戦によって破れたのでなく、心が破れていたから、かかる戦争をはじめたのである。即ち心の破れは結果でなく原因である。そしてこの心の破れているのはただ日本人だけではない。アイゼンハワー米大統領はパリまで出かけて行って、平和には犠牲が必要であると叫んでいる。彼の意味するのは、軍備の拡充によって平和を来らせようというのである。彼の心も破れている。この心の破れがいつまた世界を破るかわからない。テニスンの歌ったように、古い争いの年をおくって、新しい平和の年を迎えることを我等は熱望してやまない。それには我等が、家庭で職場で、破れを繕う者とならねばならない。これにまさる光栄ある仕事はない。」(藤本正高)
天下の秋を送るにあたってこの先人のことばを胸に秘めて政治を注視するだけでなく、自ら家庭にあって人々の中にあって繕う者とさせていただきたい。聖書は語る。
あなたのうちのある者は、昔の廃墟を建て直し、あなたは古代の礎を築き直し、「破れを繕う者、市街を住めるように回復する者。」と呼ばれよう(旧約聖書 イザヤ書58・12)。
(写真は生家の近くにある「しんのき川」に面する板塀の連なる風景。)

















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